2025年10月、トランプ前統領が中国製品に対して100%の追加関税を課す可能性を示唆しました。
これは累積で130%相当という4月に引き続き100%超の衝撃的な水準です。
さらに重要ソフトウエアの対中輸出規制も併せて導入する意向が報じられています。
このような動きに対して、株式市場、債券市場、コモディティ市場、さらには仮想通貨市場までが連鎖反応を示しています。
本記事では、なぜ今回の関税ショックで米国債金利が低下したのかを、2025年4月の関税ショックと比較しつつ、背景要因を掘り下げます。
そして、今後の投資戦略のヒントも紹介します。
トランプの対中関税示唆と市場の反応
関税強化の背景
トランプ大統領は関税強化を主張する理由に、以下のようなものを挙げています。
- 中国のレアアース(希土類)輸出規制強化
- 中国による米国産大豆購入の凍結
他に考えられる背景としては以下のようなものがあると筆者は考えています。
- 中国が軍事パレードにロシアや北朝鮮などを招待して反米・対米の動きを見せていた。
- 中国は米国船舶が中国の港に寄港する際に特別料金を課すという話がある。
- 脱ドル化の動きを進めるため、上海協力機構(SCO)が諸外国と人民元建て決済を推進する開発銀行を設立するという話もある。
関税強化の目的
当然、トランプ大統領としては、関税という圧力を通じて、これら中国の政策を撤回させたいとの目論見があります。
実際に、中国がこれらを撤回すれば関税をかけない可能性もあると言っています。
もし中国がこれらを撤回しないと、今月韓国で予定されている米中首脳会談が実現しない可能性にも言及しており、外交交渉の先行きにも不透明感があります。
市場反応 — 株価下落、債券価格上昇
このニュースを受けて、世界の株式市場は軒並み急落しました。仮想通貨やコモディティ価格も軒並み打撃を受けました。
一方、債券市場は逆方向の動きを示し、米国債金利は低下(債券価格は上昇)しました。
特に10年債・30年債の利回りが顕著に下がったようです。
この動きは、2025年4月の関税ショック時とは対照的です。
当時は米国債金利は上昇(債券価格は低下)しました。
なぜ今回だけ「金利低下」が起きたのか、考察したいと思います。
2025年4月 vs 10月 関税ショックの違い
4月関税ショックで金利が上がった理由
4月時点で関税が発表された際、多くの市場関係者は、輸入物価の上昇 → インフレ加速 → FRBによる金利引き上げという道筋を想定していました。
そのため、債券市場では利回りが上昇し、金利が跳ね上がる動きが強まりました。
10月の追加関税で金利が下がった理由
10月段階では、米国消費者心理が冷え込む懸念、購買意欲の後退、企業投資・輸出の先行き不透明感が強まり、景気後退リスクの拡大が意識されました。
これにより、安全資産と見なされる米国債への需要が高まり、結果的に債券価格上昇・金利低下という動きが出たと考えられます。
さらに、トランプ政権が得た関税収入を公共事業や社会保障に使わずに、利払いなどの国債費用に回す可能性が意識され、財政規律の正常化を優先するとの観測も出ています。
こうした「需要+リスク後退観測」の複合要因が、今回の金利低下の主因と考えられます。
米国産業構造と関税政策の限界
二極化する産業構造
米国産業は現在、以下のような二極構造を抱えています:
- ハイテク・AI分野:世界をリードするポジションで、輸出競争力あり
- ローテク/伝統産業(自動車、農業など):国内では輸入品とのコスト競争で苦戦
トランプ政権は、後者を関税で守ろうという意図を持っており、コスト競争で外国勢に押されている産業を国内回帰させ、雇用や景気を改善する政策志向が強いようです。
ローテク/伝統産業の国内回帰が進まない理由
しかし実際には、関税をかけられた輸入品の価格上昇分の負担は、企業自身・輸入業者・消費者間で分担される傾向があります。
国内産業を新たに起こすコストやリスクを考えると、企業は慎重になっているようです。
更に、トランプ大統領は移民規制強化を行なっています。
ローテク/伝統産業に従事する意思のある人員が減ってきており、労働力確保にも制約がかかります。
2025年4月と10月で金利の動きが異なる理由:
2025年4月のトランプ関税で金利が上昇した理由:
2025年4月のトランプ関税が発表された時点では、上記のような国内回帰が進まない理由がまだ分かっていませんでした。
関税が導入されると輸入物価の価格が上がり、インフレが加速すると考えられていました。
そのため、この時は金利が上昇したと筆者は考えています。
2025年10月の中国への追加関税で金利が下落した理由:
4月から10月までの間、アメリカの消費者は主に価格の上がった商品を買い控えるか、借金をして買う方法で凌いでいたようです。
10月の追加関税ではさらに買い控えと借金が増えることになると考えられます。
AI・ハイテクの分野は好景気ですが、輸出コストの増加で輸出による利益は減少するでしょう。
そして、トランプ政権が関税で得た税収を何に使うか、ということが気になりますが、国債の利払いなどの財政規律の正常化に使うのが基本のようで、国民への還元は限られると考えられます。
つまり、消費者の購買意欲や購買力、企業の利益は落ちていくにも関わらず、トランプ政権は税金の還元による景気対策を実施しないと考えられます。
そのため、景気後退の懸念が高まり、今のうちに安全資産である高金利の米国債券を買っておこうという需要が強まり、金利が低くなったと考えられます。
FRBが今年あと2回の政策金利の低下を見込んでいるのも要因としてあるでしょう。
金利変動と債券市場の存在意義
金利と債券価格の関係
債券価格と金利は逆相関の関係にあります。
債券価格が上がれば金利(利回り)は下がり、逆に価格下落は金利上昇です。
投資家視点では、先行きリスクが高まる時には相対的に安全な資産に資金が集まり、金利低下圧力がかかることがあります。
市場の制約
債権市場はしばしば政府の過度な債務拡大やインフレ政策に対して利益率を引き上げることで制約をかける役割を果たします。
今回のように関税政策が拡大すれば、「利回りを上げよ」という圧力が債権市場から出る可能性もあります。
現状の投資戦略
景気減速に対応|2025年4月と10月で異なる金利の動き
2025年4月と10月で関税に対する金利の動きが異なることから、景気減速を意識した対応を検討したほうがよさそうです。
具体的には、
- 現金比率の増加 — 一部の株を売却して日本円に換え、有事のドル売り円買いに備える
- 米国債を組み込む — 現状では利回りが高く、リスク回避時の安全資産として機能
- 株式のセクター分散 — ハイテク、グロース株にも比重を残すが、防御的セクターも組み込む
- コモディティ・金 — インフレリスクに備えるヘッジ資産として検討
などの、基本的な対応がよいと考えます。
状況を分析
このように、政府がどのような方針を打ち出すか読めず、周りがそれをどう受け止めるかも読めない状況では、情報を慎重に分析して状況を見極めるべきです。
トランプ政権も十分に検討して追加関税を発表したはずですが、トランプ大統領がまたTACO(「Trump Always Chickens Out」(ドナルド・トランプ大統領はいつも尻込みして退く))気味になり、追加関税を減らす可能性もあります。
そうなると株価や仮想通貨、コモディティの価格は元に戻るかもしれません。
短期トレード戦略
株価や仮想通貨が今回の関税ショックで大きく下げたため、反発を狙った短期トレード戦略も一手です。
ただし、リスクは高いためポジションは小さめに持つなど慎重なアプローチが必要です。
まとめ — 今回の関税ショックをどう捉えるか?
- トランプ氏の100%関税示唆は、実際には130%相当の累積関税というインパクトを含んでいます。
- 市場は株・仮想通貨で売られ、逆に債券・金利は低下する逆相関な動きを示しました。
- 2025年4月のショック時と異なり、景気後退リスクが先行した形で金利低下という動きが出ました。
- 関税政策には国内回帰の意図があるものの、実際に国内投資が進むかは疑問が残ります。
- 投資戦略としては、反発を狙った少額の短期トレードを取り入れるのもおもしろいでしょう。
- 今後も米中交渉、FRBの金利政策、各国の景気指標、そして政治リスクに注視しながら、柔軟な投資姿勢を維持することが重要です。
FAQ(よくある質問)
Q1:トランプの関税示唆は本当に100%になるのか?
A:現時点ではあくまで示唆段階であり、最終決定には交渉や議会対応が必要です。実際には段階的措置となる可能性もあります。
Q2:なぜ10月の関税示唆で米国債金利が下がったのか?
A:景気後退懸念や安全資産需要の高まり、さらに関税収入による国債返済予測などが背景にあると考えられます。
Q3:債券投資は今が買いタイミングか?
A:現時点では利回りも高く、安全資産として需要が見込めるため、有力な選択肢と言えます。ただし金利上昇リスクも併せて考慮すべきです。
Q4:この関税政策で日本株・日本経済はどう影響を受けるか?
A:世界的な景気減速リスクやサプライチェーンの混乱、日本企業の米国向け輸出への影響などが懸念材料となります。
心の安定を持つために
相場が激しく動くと、心理的な不安がつきものです。しかし、動きこそが投資チャンスにもなります。「相場が動いた時はチャンス」というスタンスで、冷静に分析しながら取る判断を大切にしましょう。
心の安定メモ
- 相場が動いた時はチャンスです。せっかく相場が動いたので楽しみましょう。
- この状況で長期投資を考えていた銘柄で短期でトレードすると、一時的に下落しても長期投資に切り替えればよいので、割安で買えたと思えるでしょう。